夜中の神社に行ってみたい。
他愛も無い会話をして、年越しの蕎麦を夕食にし、年末特番を梯子した。
外の神社から鐘の音がし始めたかと思えば、気がつけば時計の長身と短針が12の文字で揃い、秒針がその上を越えた。。
「今年もよろしくな、親父」
「おうよ、今年もよろしく頼むぜ」
炬燵に入りながら、オレは親父と新年の挨拶を交わした。
新年になり、番組も終わりを迎え始めた。
「じゃ、おやすみ」
「おやすみ」
オレは立ち上がり、軽く身体を伸ばして、階段を上がった。
(さーて、早く寝て、明日ツナたちと初詣にでも)
そう思いながら部屋の戸を開けた。
すると、肌を刺すよな冷たい外気が吹き付けてきた。
「やあ、お邪魔するよ」
「・・・・・・あり?」
鍵が掛かっていたはずの窓を全開にし、学ランをなびかせた雲雀が窓枠に足をかけていた。
オレは明日の予定を考えいたため表情を上手く崩せず、不自然な表情で固まってしまった。
「・・・明けましておめでとうゴザイマス」
「うん、謹賀新年」
革靴を脱いで窓枠からひらりと部屋の中に降り立った。
(昨日、大掃除しておいて良かった)
部屋の中は珍しく、散らかっていたものが消えたため、綺麗だった。
昨日のまま散らかっていたら、口には出さないが雲雀が何を思うか分からなかった。
「で、今回は何用で?」
「うん、初詣行こうかと」
よく見れば、雲雀の手には札と絵馬と破魔矢が入った袋が握られていた。
「オレと?」
「うん」
「今から?」
「そう」
殆ど二つ返事で雲雀は返した。
「・・・親父に言ってくる」
「その必要は無いよ」
そう言うと、雲雀は入ってきた窓を指した。
「ここから行くんだから」
「オレ、雲雀見たく身軽じゃ」
そういって止めようとしたところ、雲雀は部屋に掛けてあったコートを引っ掴んで、更にオレを肩に担ぐと(荷物じゃないけど)窓枠から飛び降りた。
少しは抵抗すべき所だったが、落とされても叶わないから何もしないでおいた。
外に出れば、冬物とはいえパジャマだけを着たオレにとってはきっと寒すぎる気温だった。(靴下履いていてよかった)
バイクの後部座席に下ろされ、引っ掴んで着たコートを雲雀はオレに掛けた。
「早く着て」
「おー」
寒さで動きがいまいち滑らかにならない。
それでも何とか着て、また部屋へと入っていった雲雀を見送った。
「はい」
数分後、雲雀が戻ってきた。
するといつも学校に履いて行っている運動靴が膝の上に置かれた。
「さんきゅ」
上手いことそれを足に靴を嵌めて、オレは座席を下りた。親父に見つからずにどうやって取ってきたのかちょっと気になったが、雲雀なら何とでもなりそうな気がした。
雲雀も、黒い手袋を嵌めて、アーガイル模様の入った紺色のマフラーを巻き直して、ハンドルを握った。
サイドにあるエンジンを踏み込むと、バイク独特の轟音が閑静な町に唸った。
タイミングを見計らって、オレは後ろに跨った。
「掴まってて」
「おー」
オレは雲雀の腰に手を回した。
商店街は街灯のみが点いていて、いつにも無く静かだった。
ノーヘルのまま走っているから、風が痛い。顔には当たらないが、耳が痛い。
右に曲がって、左に曲がり、車の無い交差点を信号無視して、着いたのはやっぱり並盛神社。
「着いたよ」
オレは先に下りて、鳥居の下階段一段上の所で雲雀を待とうと思った。
けど数分もせずに来るだろうから、先に上に向かうことにした。
そこは音が無いじゃなくて、本当に無音に近かった。虫の鳴き声も、車の音も聞こえない。
オレの足音が、やけに大きく聞こえた。
ふと、後ろを振り返ってみた。
「・・・ヒバリ?」
後から追ってきているはずのヒバリの姿が無かった。
(ヒバリ、どこ行ったんだ?)
ぐるっと辺りを見回しても、見えるのは木、木、木。
妙に不気味だけれど、気にせず階段を登る足を進めた。
最上段を上りきる一段前、もう一度後ろを見た。
しかし、ヒバリの姿は無い。
格好が学ランで黒かったせいで見えなかったのだろうか。
流石に殆ど足を止めずに上ったせいか、息が上がって、視界が何度も白くなる。
「んー、どうすっかな」
「何を?」
「どぅわあぁぁあぁっ?!」
いきなり耳元でヒバリの声がして、思わずオレは叫んで、そのまま前へとふらり。
しかしすぐにヒバリが腕を掴んで引き戻してくれた。
一瞬の浮遊感はもう一生、忘れることは無いだろう。
「い、いつの間に一番上に」
「裏道使ったんだよ」
僕が知らないわけ無いでしょ。
そういうヒバリは、すこし誇らしげに見えた。
「それに、いいものも見られたしね」
「あれは、不可抗力なのな」
今だばくばくと煩い心臓を押さえるため、オレは最上段に腰を掛けた。こっちは本当に驚いたんだからな。
ヒバリも、その横に座った。そして、どこかで買ってきていたものか、少し温くなった缶のココアをくれた。
「人が群れてないのは、やっぱり気分がいいね」
ヒバリの手には、コーヒーの缶。
「ちょっと不気味だったけどな」
オレは誰もいない薄暗い階段を見て言った。
「この道は暗いからね」
「ヒバリの道は明るかったのか?」
「うん、結構」
「じゃ、オレもそっち通ろうかな」
「一人は寂しかった?」
「まあな」
「そう」
よし、帰りはオレもそっちを通ろう。
・・・あ。
「お参りはいいのか?」
「こんな夜中にアレ鳴らすわけにいかないでしょ」
「あ、そっか」
折角の静寂だもんな。
「今年も、宜しく」
「おう、よろしくな」
何となく、ココアとコーヒーで乾杯をした。
並盛神社で、あってたっけ・・・
一応、新年初の文。
2009/01/04(Sun.)
2010/06/13 加筆修正。