会議後の生徒会室は閑散としていた。会議中の騒がしさが嘘のように消え去り、縦長の大きな窓からさす西日がなんとも言えない穏やかな雰囲気を醸し出していた。デスクに残っている紙の山はほとんどが廃棄されるべき古紙であり、必要な紙はすでに目を通し、棚にずらりと並んだファイルの中に納められていた。
 その室内で、アーサーは一人、窓際に座り紅茶を楽しんでいた。彼にとってこの時間は至福の一時であった。騒がしい弟もいなければ、何かと突っかかってくる幼馴染もいない。さくり、と別の学部の友人から貰った市販のクッキーをかじった。
 向かいのだれも座っていない椅子の前には、カップの伏せられたソーサーが一式、その横にはクッキーの乗った皿が置いてあった。これらは、これから来るであろう生徒のために用意されたものであった。
 紅茶を啜りながらちらりと時計を見やれば、五時一分前。同時に、外の廊下に足音が響き始めた。

 そして長針が一歩進んだ瞬間、ドアが開いた。

「よぉ、邪魔するぜ」

ノックもなしに入ってきたのはギルベルトだった。短い銀髪をかきあげながら、かつかつと近づき、アーサーの前の椅子に座った。そして皿に乗ったクッキーを一枚掴んで一言。

「…今日は市販品かよ」

ティーカップをひっくり返し、紅茶を注ぎながら、アーサーは言った。
「悪かったな。忘れたんだ」

暖かい紅茶はふわりと湯気を立てながら、ギルベルトの前に置かれた。品の良い香りが鼻をくすぐった。

「その分、紅茶はいい葉にしてある」
「いい葉なら、いい菓子も必要だろが」

そういってにやりと笑ったギルベルトは、鞄とは別に持っていた紙袋をテーブルの上に置いた。その中から出された箱は簡素な茶色の箱だった。

「何だ?それ」
「ふふん、“いい菓子”だ」

しかし、いい菓子というにはラッピングが安すぎだった。リボンもデザインも何もない、どこにでも売っていそうな安物のラッピングだった。
 だが箱を開ければ、そこにはきれいな焼き色をした小ぶりのケーキが二きれおさめられていた。飾りもクリームもない質素なケーキだったが、アーサーは笑みをこぼした。

「お前が作ったのか」
「まーな。いっつも作ってもらってばかりじゃつまんねーしよ」

アーサーはデスクの引き出しから円形の紙ナプキンを二枚と輪ゴムを取り出した。そして皿に乗っていたクッキーをナプキンで包みその口を輪ゴムで縛り、テーブルの端によけた。ギルベルトはそのあいた皿にケーキを乗せた。

「っと、フォークも必要だな」
「ぬかりはないぜ」

そういって、ギルベルトは紙袋から、先を紙で巻かれたフォークを二本出した。


それを受け取り、アーサーはケーキを一口口に入れた。

「…ん、うまいな」
「当たり前だ」

ギルベルトはカップを口につけ、一口すすった。

「お、確かにいいな。これ」
「俺のとっておきだ」

口の端を吊り上げ、アーサーはもう一口、紅茶を飲んだ。

「さすが、紅茶にうるさいカークランド会長様だな」
「紅茶は紳士のたしなみだ」

その言葉に思わず吹き、フォークをくるくると振りながら、ギルベルトは返した。

「料理は、まだまだだけどな」
「…うるさい」

こうして、今日も静かにお茶会は続いた。





突発的に書きたくなった普英です。自分の妄想内でプロイセン再熱気味。
次は英普もかいてみよっと。