「兄さん…」
「ん?」
プロイセンはソファに座り、テーブルの上で缶詰やらレトルトパウチやらを広げていた。一緒に皿とフォーク、コーヒーも置かれている。
「今は戦時でもなければ、訓練でもないのだが」
ドイツは広げられたそれら全てに見覚えがあった。全くいい記憶でないが。
「そうだな」
プロイセンは慣れた手付きで缶詰を缶切りで開けると、フォークで皿へと移した。
「オレ達は今、我が家で昼飯を食べようとしている」
ドイツも、その向かいで有り合わせのサンドイッチを膝に置いて座っていた。まだ手は付けていない。
「あぁ、間違いではない」
間違いでは、ないのだが…
ドイツは溜息を吐いた。
「家でレーションを食べるのは止めてくれ」
「何でだよ、別に良いじゃねーか」
これだって立派なメシだ。
プロイセンは少しスープで汚れたフォークでドイツを差して言った。
「不味いどころか、美味いじゃん。カロリーだって十分に摂れるぜ?」
「……」
その言い分は間違っていない。
「まぁ、久々に食いたくなったってのが本音だけどな」
そう言って、プロイセンは皿に移したソーセージをかじった。
「オレん時はこんな美味くなかったからなー。生焼けとか当たり前だったぜ」
次にフルーツサラダの缶詰を開けた。フルーツと書いてあるが、しっかり塩味のサラダである。
「当時の技術からすれば納得できないでもないが…その、大丈夫だったのか?」
「まぁオレは国だからそう問題なかったな。基本毒物以外なら大丈夫だろ。腹壊した奴はいなかったわけじゃない」
今食ったらどうかは知らねーけど。プロイセンはサラダを口に入れながら言った。
「ところで、それは一体どこから貰ってきたんだ?」
「…この間野外訓練でわけもなく貰ってきてオレに押しつけた奴は誰だよ」
「…あぁ、あれか…って、それはこの間じゃなく随分前じゃないか!」
ドイツはサンドイッチの皿をテーブルに置き、缶詰その他を全て回収しようと動いた。
「あ、何しやが」
「そんな前の物食うなっ!」
「返せよっ」
プロイセンが手足で抗議する前に全て回収したドイツはそれらを問答無用でキッチンのゴミに交ぜた。
「ヴェストー!」
「それを食べてくれ」
それ、とはつい先ほどまでドイツが食べていたサンドイッチのことで、皿を見ると、まだ殆ど残っていた。
「また探してくるから」
探して気に入るものが見つかるかどうかは分からないが、類似品くらいは見つかるだろう、そう思った。
「絶対だからな」
プロイセンはそう言って、サンドイッチに手を伸ばした。